フィリピンの国旗は青・赤・白の3色に太陽と星が描かれた美しいデザインですが、実はこの国旗には「上下を逆にして掲げる特別なルール」があります。それは単なる掲揚ミスではなく、戦争や国家の危機を知らせる重要なサインです。
この記事では、フィリピン国旗が逆さまに掲げられる理由と、そこに込められた深い意味をわかりやすく解説します。
フィリピン国旗のデザイン構成と意味

フィリピン国旗は、単なる色の組み合わせではなく、国の歴史と理念が細部にまで込められた象徴的なデザインです。
中央の白い三角形には、太陽と3つの星が描かれています。
太陽の8本の光線は、スペイン植民地時代に最初に独立運動を起こした8つの州を意味し、3つの星はルソン島・ビサヤ諸島・ミンダナオ島という国の三大地域を示しています。
横に並ぶ2色の帯にも明確な意味があります。
- 青(上部):平和、正義、真実、理性を表す
- 赤(下部):勇気、愛国心、国のために立ち上がる力を表す
- 白(三角形):純粋さ、友情、平等
このようにフィリピンの国旗は、色と形で「平和・勇気・団結」という3つの理念を表現しています。

「国旗が逆になる」──その本当の意味

通常、フィリピン国旗は青が上・赤が下で掲げられます。
これは「平和な状態」であることを意味します。
しかし、戦争状態または国家の危機に直面したときは、国旗を赤を上・青を下にして掲げる特別な規定があります。
このルールは**フィリピン共和国法第8491号(旗と紋章に関する法)**によって正式に定められています。つまり、上下の色の順序そのものが「国の状態」を伝える手段なのです。
🔹青が上 → 平和・安定
🔹赤が上 → 戦争・緊急事態
他国では国旗の上下が変わることは「掲揚ミス」ですが、フィリピンでは「国の状況を知らせるメッセージ」として文化的に根づいています。
歴史の中で逆さに掲げられた時期

フィリピン国旗が「赤を上・青を下」に掲げられた事例は、国の歴史の転換期や戦争時、あるいは社会的抗議運動の場面など、いくつかの重要な瞬間に見られます。
ここでは、時代ごとに代表的な事例とその背景を詳しく見ていきましょう。
🕰️ フィリピン・アメリカ戦争期(1899〜1901年)
独立直後の戦争と初の逆掲揚
1898年にスペインから独立を宣言したフィリピンは、翌年、アメリカとの戦争に突入しました。
この**フィリピン・アメリカ戦争(Philippine–American War)**の期間、エミリオ・アギナルド率いる「第一フィリピン共和国」では、国旗を“赤を上”に掲げることで、国家が戦争状態にあることを示したと伝えられています。
意味と背景
この時期、国旗の逆掲揚は単なる象徴ではなく、「独立を守るための闘いの意思表示」としての意味を持っていました。
当時の政府文書や記録にも、戦闘地で赤を上に掲げた描写が残されています。
⚔️ 第二次世界大戦期(1941〜1945年)
日本占領下での逆掲揚
1941年、日本軍がフィリピンに侵攻。当時のコモンウェルス政府(米国支配下)は戦争状態に入りました。
その後、日本の支援を受けて設立された**第二フィリピン共和国(1943〜1945年)**が、米英に対して公式に宣戦布告した際、国旗は“赤を上”として掲げられました。
戦時中の国旗の扱い
この時代、国旗は国家の意志そのものであり、「赤上=戦時」を明確に示す象徴として政府施設や公共の場に掲げられていました。1944年の記録では、マニラや各都市で戦時掲揚が確認されています。
✊ エドゥサ革命(1986年)
独裁政権への抵抗と国旗の象徴化
マルコス政権による長期独裁に対し、国民が立ち上がった民主化運動「エドゥサ革命(People Power Revolution)」では、一部の参加者が国旗を赤を上にして掲げ、「権力への抵抗」と「国民の勇気」を象徴しました。
平和的革命における“赤上”の意味
戦争そのものではなかったものの、この逆掲揚は「平和のための戦い」を象徴する形で広く共有されました。
戦い=暴力ではなく、“自由を取り戻すための決意”という平和的メッセージが込められていたのです。
🌐 2010年 ASEAN首脳会議での誤掲揚事件
国際舞台でのミスと政府の訂正
2010年、ベトナムで行われたASEAN首脳会議において、フィリピン国旗が誤って「赤を上」に掲げられました。
本来は平時を示す青を上にすべき場面での誤りだったため、当時のフィリピン政府は「我が国は戦争状態ではない」と公式声明を出しています。
この事件が与えた影響
国際的な注目を集めたことで、「国旗の向きがフィリピンではどれほど重要か」という認識が世界的に広まりました。また、教育現場でもこの出来事をきっかけに国旗の正しい掲げ方が再確認されました。
🌏 2016年:Facebook誤用事件
独立記念日の投稿ミス
2016年、Facebook公式アカウントが独立記念日の祝賀投稿で、誤って「赤を上」にしたフィリピン国旗の画像を使用。
この投稿は瞬く間に拡散し、「戦争状態を意味する」と指摘されました。
SNS時代の象徴的ハプニング
同社はすぐに謝罪声明を出しましたが、この事件によって**“赤上の意味”が一般市民にも再認識される契機**となりました。
国旗の向きが国家の状態を表すというフィリピン特有の文化は、デジタル時代にもなお大切にされていることがわかります。
🌱 2019年:ニューヨークでの気候ストライキ
市民活動としての逆掲揚
2019年9月、ニューヨークで行われた**気候変動ストライキ(Climate Strike)**では、フィリピン系移民団体が“赤を上”にした国旗を掲げました。
これは「戦争ではなく、気候危機との戦い」を意味する象徴的なアピールでした。
戦争以外の“危機”を示す使い方
このケースは国家行事ではありませんが、「平和が脅かされている=戦うべき事態」として赤を上に掲げた興味深い例です。
国旗が“社会的メッセージの表現手段”として使われることを示した現代的事例といえます。
💡 まとめ
フィリピン国旗が“赤を上”に掲げられるのは、戦争や国家の危機だけでなく、時には「自由」「正義」「地球環境」など、さまざまな“闘い”の象徴としても使われてきました。
その歴史を通して見えてくるのは、フィリピン国旗が単なる国家のシンボルではなく、**時代ごとの国民の想いを映す“生きた旗”**であるということです。
よくある質問(FAQ)

Q1. フィリピン国旗を逆さまに掲げるのは法律で決まっているの?
はい。フィリピン共和国法第8491号(Republic Act No. 8491)「旗と紋章に関する法」により、国旗の掲げ方は明確に定められています。
この法律の第10条には、
“During times of peace, the blue field shall be displayed on top; during times of war, the red field shall be displayed on top.”
(平時には青を上に、戦時には赤を上に掲げる)
と明記されています。
つまり、逆さまに掲げるのは国家の正式なサインであり、偶然ではありません。
Q2. 間違って逆に掲げた場合、罰則はあるの?
意図的でない場合、刑事罰はありません。しかし、フィリピンでは国旗は非常に神聖な象徴であり、公的な式典や建物での掲揚時に誤ると、国民から強い批判や抗議が起きることもあります。
過去には2010年のASEAN首脳会議や2016年のFacebook投稿など、「誤掲揚」が社会的ニュースとして大きく取り上げられた例もあります。
それほどまでに、国旗の向きは国民にとって重大な意味を持つのです。
Q3. 他の国にも同じような“逆さの意味”を持つ国旗はある?
ほとんどありません。
フィリピンのように上下の向きによって国の状態を示す国旗は、世界でも非常に珍しい例です。
一部の国では「旗を逆さに掲げる=SOSや非常事態を示す」慣習がありますが、それは公式な法律で定められたものではありません。
この点で、フィリピンの国旗は“世界でも唯一無二”の存在といえます。
Q4. 旅行中に赤が上の国旗を見かけたら、どうすればいい?
赤が上の国旗は、戦争や国家的危機を示すため、通常の観光地ではまず見ることはありません。もし見かけた場合は、政府施設や記念イベントなど特殊な場面である可能性が高いです。
ただし、市民活動などで象徴的に使われるケースもあるため、必ずしも「実際の戦争中」という意味ではありません。いずれにしても、敬意を払って静かに見守るのがマナーです。
🕊️ まとめ:逆さの国旗が伝える“平和へのメッセージ”
フィリピン国旗が“逆さま”に掲げられるのは、戦争や国家の危機を意味する正式なサインです。
- 青が上なら「平和」
- 赤が上なら「戦時」
この明確な区別は、フィリピン国民が「平和を何よりも尊ぶ国」であることを象徴しています。
歴史を振り返れば、国旗は常に国民の誇りとともにあり、戦いの時代にも、そして平和な今にも、その色が国の状態を語り続けています。
上下の順番という小さな違いの中に、フィリピンの独立・勇気・平和への願いが込められているのです。

